SUCK OF LIFE歌詞解釈というか二次創作2017②
SUCK OF LIFE二次創作②
性的な表現があります。好きな歌詞を題材に好き勝手されることが苦手なひとはどうかこのままブラウザを閉じてくださいね。
この歌を貶める意図はありません。大好きな歌で、とても楽しく創作しました。
自身の解釈を踏まえて、「君の彼はゲイでおまけにデブ」の「君」と「ゲイでデブ」なのは誰だ?というところから生まれた物語です。
実在の人物とは関係ありません。
「君の彼はゲイでおまけにデブ」
①「君」=「僕の好きな男の子の彼女」で、「ゲイでデブ」なのが、僕の好きな男の子。←前記事
②「君」=「僕の好きな男の子」で、「ゲイでデブ」なのが、僕。←下記本文
※本文中の「君」は人称です。
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ほの暗く、煙に霞むバーの一角、決して狭くはないふかふかのソファーの上で僕は、ことさらに身体を小さく丸めて冷や汗をかいている。
鍛え上げられた肢体をポールに絡ませて踊る女性を直視できずに、横目で盗み見ながら勧められた名も知らぬ酒を舐める。
「もう酔った?」
隣に座るうつくしいひとが僕の顔を覗き込む。長いまつ毛をはためかせて、ゆっくりと瞬く青い瞳。見惚れる僕のくちびるからだらしないため息がもれた。
「君もあんな風に踊れるの?」
「あなたと出会う前は俺にもたくさんのお客さんがいたんだよ。売れっ子だったんだ」
僕は下品な想像をする。ステージを終えた彼の下着のきわどいところにチップが差し込まれる様子を。
「いつかごっこ遊びをしようか。あなたのために踊るよ」
耳にくちびるを押し付けて、吐息に溶かせた甘い声で誘われたら切なくて泣きそうになる。僕は君のお客さんじゃないよ。
「ごめんね、ハニー。そんな顔しないで」
そんなこどもみたいなくちづけで僕を慰められると思われるなんて心外だ。
僕は君のハニーなんだから、この切ない気持ちをどうにかしてよ。
君がよく行くお気に入りの場所へ連れて行って、とねだって案内されたバーは、かつて彼がダンサーとして出入りしていたところだという。
普段から外食する習慣すらない僕にとっては居心地のいい空間ではなかったが、つかみどころのない彼を知りたくて必死だった。
彼はここへ来てからすれ違うほとんどすべてのひとに声をかけられ、意味深に微笑みかけられ、熱い視線を投げかけられていた。
たとえば彼の隣に座る太った男が、彼のうつくしい髪を撫でたなら、そいつは店の外へ追い出されるだろう。
彼は僕のあごのたるんだ肉をぷにぷにとつつき、肩を抱いてよ、なんてごきげんで囁いてくる。
僕は膝の上で拳をぎゅっと握り、うつむいたままぽたぽたと冷や汗を流している。
僕らのテーブルに新しい酒が運ばれてきた。頼んだ覚えはない。彼と目を合わせて、お互い首をかしげる。
カウンターに視線を向けると、先ほどまでポールダンスを披露していた女性が微笑んでいた。
彼は僕の頬にかすめるようなくちづけを置き土産に、挨拶してくるねと立ち上がる。
途端に無遠慮な視線が僕に突き刺さった。厚い脂肪に守られていなければ今ごろ僕は死んでいる。
「1ステージ踊ってって言われちゃった」
見ててね、なんて軽やかに言うだけで、かんたんに僕を置き去りにしてフロアの人波をするすると泳いで行ってしまう。
きっと最後の日も、僕はこんな風に動けず、声も出せず、まっすぐに伸びた彼のうつくしい背中を所在なく見つめるしかできないだろう。
もしも彼が僕の心を読めたなら、その日は今日かもしれない。
人だかりの中心から嬌声が上がる。
昨夜、頭のてっぺんからつま先までぜんぶ僕のものだった彼が、やんわりと僕の手を拒んだことを思い出す。
彼の肌に跡を残したがる衝動を幾度も咎められ、出来の悪い生徒はくちびるを噛む。
媚薬を乗せたような舌であやすようにそこを吸われながら、冷えた肌をそうっと撫でた。縋りつくように。拒まれないように。温めるように。
いつ終わってもおかしくない。これが最後かもしれない。いつだって怯えている。
彼のことをいとおしく想うほど、僕はその恐怖を受け入れ、この時をいつくしむことに専念した。
「ねえどうだった?かっこよかった?」
ステージを終えて席に戻ってきた彼の両脇にはさっそく悪い虫がついていた。
彼が踊っている間、ずっとバーカウンターに寄りかかって、彼(と、ついでに僕)を値踏みしていた女性たちだ。
僕は震える膝を叱咤して立ち上がり、両腕を広げて言い放つ。
「すっごく素敵だった。ハグさせて、マイスウィーティ」
女性たちはつまらないジョークが聞こえたわ、というように肩をすくめ、彼の頬にしっかりと音を立てて口づけてから離れていった。
僕よりもずっと背の高い彼を抱きしめると、ちょうど心臓のあたりに頬が触れる。彼の耳には決して届かない声でつぶやいた。
「君の彼はゲイで、おまけにデブ。幸せになりたくなったら、いつでもいって。覚悟はできてる」
抱擁を解くと、今にも泣き出しそうな瞳が見下ろしていた。潤むとよりうつくしい青い瞳。
僕は彼の頬に残る口紅をハンケチで拭い、落ちないと気づき、靴を脱いでソファに乗りあがり、そうしてやっと届く彼の頭を胸に抱え込んだ。
「かっこよかったよ。君を知りたいなんて言って困らせたのならごめん。君はとっても素敵だ、いい子だね、ありがとう」
彼は僕の胸元で洟を拭い、深く呼吸を整えてから言った。
「早く帰ろう。ゆっくりお風呂に入りたい。いっしょに」
頬だけじゃないんだよ、と、言いにくそうに彼は告げた。
「怒らないでね」
少しいたずらっぽく焦らしながらシャツを脱いだ彼の胸元に、赤い数字が並んでいる。――電話番号だ。一、二件どころではない。
「口紅で書かれた」
ステージでの彼はホットパンツ一枚だった。
「背中も見てよ、なんて書いてあるの?」
自分じゃ見えなかったんだ、と僕に背を向ける。
「…ちょっとね、口には出せないことばだ」
「ああーもーやだなぁ。女の子のああいうところ」
彼はキッチンからオリーブオイルのボトルを持ち出し、バスルームの準備を始めた。
「…怒らないよ」
きれいに並んだ背骨の突起に目を奪われたまま、ぼんやりとつぶやく。
「君が何をしても、僕は怒らない」
「ふうん」
自分は服を脱ぎ終え、僕のシャツを脱がしにかかる。いつも、上半身は着たままだった。でっぷりと太ったおなかを曝すのがいやだった。
僕が嫌がっているのを知りながら、すべての衣服を取り払い、にやりと口の端だけで笑う。
「背中にオイル塗って、落書きを落としてくれる?」
狭い浴室の壁に両手をつかせ、口紅で書かれた【I LOVE YOU】を落としていく。
彼は自らの手で、胸元の電話番号をくるくると消している。
「ねぇ、さっき、言ってたの、本気?」
さっき、とは。
「…覚悟、できてるって」
ああ。耳鳴りがして、ブラックアウトする予感。覚悟など、ほんとうはできていない。こんな、すべてを曝す滑稽な姿で。
「…君が望むなら、その通りにしたいとおもっているよ」
「あなたはどう?俺と結婚したいって本気で思ってる?」
――うん?
「いつも俺にあわせてくれるけどさあ、すごい我慢してるよね?そんなんじゃ幸せなんてほど遠いんだからね」
幸せになりたいなら…覚悟はできてる
「うわあ、そう取る?そうか…いや…」
「だいたい俺は人前で肌を出す仕事なんだから、跡残さないでっていってるのに、そのくせ、」
小言を続けながら彼はくるりとこちらに向き直した。口紅の汚れは跡形もない。
「変なところで遠慮しすぎなんだって」
甘く、とろけるような声でささやいて、オイルにまみれてぬるぬるの肌で僕に抱き着いてくる。
「あなたのおなか、やわらかくて、すっごい、きもちいい…」
肌をこすり合わせて、触って、と僕の手を導く。
絡めて、溶けるような、けれどもところどころひどく血液が集まるようなおかしな感覚で、僕らは踊り続けた。
鍛え上げられた体幹でぬるつく僕を支えながら、先ほど披露された情熱的なダンスをなぞる。
リードを代わってもらって、彼の背後に立つ。尖らせた舌で、【I LOVE YOU】と書く。
跡に残らないように慎重に、いたいけなくびすじを吸う。
「ずっと食べていたいくらいおいしい」
「上等なオイルなんだよ」
「君の肌は最高だ」
彼はくすぐったそうに笑いながら、僕の手を取り、指先を口に含んだ。
「俺にも食べさせて」
爪に歯を立て、指の間を舐め、音を立ててきつく吸い上げる。おいしそうに食べる姿が好きだ。偏食でないところも。
「ずっと食べていて」